伝統食品「麩」
麩(ふ)は、小麦粉のたんぱく質から作られる加工食品です。小麦粉のたんぱく質には「グリアジン」と「グルテニン」があり、水を加えてよくこねると「グルテン」になります。このグルテンが「湿麩(しっぷ)」と呼ばれるものです。こね方や小麦粉の種類などでグルテンの形成ぐあいは異なるといわれています。塩の添加もグルテンの形成には効果的です。最近では、米粉パンの人気が高いですね。でも、パンは、原則として米粉だけでは作ることができません。米粉にグルテンを加えて作られるものです。最近では、高アミロース米が生産されつつあり、米粉100%のパンやパスタなるものも少しずつ市販されているようですが、小麦アレルギーの人は注意してください。
生麩は湿賦をそのまま使う場合もありますが、粟やヨモギ、もち粉や白玉粉などを加えて練り、もちもちとした食感にした麩もあります。ゆでたり蒸したりした後、田楽や椀だね、煮物などにします。 | ![]() |
焼き麩は湿麩に強力粉や山芋などを加えて焼いたものです。煮くずれしにくいので煮込みやなべ物などに使われるものや、おつゆに浮かべて食べるもの、最近ではラスクや麩菓子なども作られています。離乳食や介護食にも向くし、常温保存もできる万能選手です。 | ![]() |
小麦粉を足して竹輪に成形したものは「ちくわぶ」と呼ばれ、おでんだねなどに使われます。主に関東で食べられている食品のようで、関西にはなかったものです。生麩と違って、「伸びる」というようなテクスチャーではありません。 | ![]() |
「小麦たんぱく(グルテンミート、セイタン)」として市販される食品の原料は、湿麩です。から揚げなどで食べると肉の食感や風味が味わえ、植物性たんぱく質ですから、菜食主義、自然食主義などの食生活を励行する人に向くようです。 |
【生麩づくり】
フードプロセッサが使えるなら、生麩を作ることは可能だということがわかりました。手ごねだけでは「ゴム」のようになるのでうまくいきません。
<生麩の作り方>
- グルテンパウダーと白玉粉(もち粉)、食塩少々を混ぜ合わせる。
グルテンパウダーに合わせる粉はグルテンの1/2程度でよいと思います。お好きな量で。 - 多めに水を加えてさっと手で合わせる。まとまらなくてもかまいません。
もろもろしたものができます。色もベージュっぽい色です。 - フードプロセッサにもろもろを入れます。「ひとにぎり」くらい。少なめに。青のりやきな粉、海苔など混ぜるなら一緒に入れます。
- 3分ほど連続で撹拌します。たくさん入れると負荷がかかりすぎてフードプロセッサが壊れるので注意してください。もろもろがひとつにまとまり、なめらかになります。
- なめらかになったら取り出し、棒状にしてゆでます。大きさにもよるのですが、包丁で適当に切ったものをゆでても良いです。どんな調理にするか、で形状は異なります。白玉団子のように丸くするのもかわいらしいです。
<生麩の食べ方>
こしあんやきなこをまぶしつけるのがおいしいかな、と思いますが、辛子(わさび)醤油もおいしいです。田楽や炒めもの・煮付けなどでもおいしく食べられると思います。WEBで検索してみて!
【麩の栄養価】
「食品成分表2010」から、生麩、ちくわぶ、板麩、車麩の主な栄養素等含有量を紹介します。もっと調べたい人は食品成分データベースを活用しましょう。可食部100gあたりですから、軽いものはかなりの「かさ」になります。
食品 | 水分(g) | 熱量(kcal) | 蛋白質(g) | 脂質(g) | 炭水化物(g) |
---|---|---|---|---|---|
薄力粉 | 12.5 | 337 | 10.6 | 3.1 | 72.2 |
生麩 | 60.0 | 163 | 12.7 | 0.8 | 26.2 |
ちくわ麩 | 60.4 | 171 | 7.1 | 1.2 | 31.1 |
観世麩 | 11.3 | 385 | 28.5 | 2.7 | 56.9 |
板麩 | 12.5 | 379 | 25.6 | 3.3 | 57.3 |
車麩 | 11.4 | 387 | 30.2 | 3.4 | 54.2 |
食品 | 食物繊維(g) | 鉄(mg) | Ca(mg) | Na(mg) | V.B1(mg) |
---|---|---|---|---|---|
薄力粉 | 10.8 | 3.2 | 26 | 2 | 0.41 |
生麩 |
0.5 | 1.3 | 13 | 7 | 0.08 |
ちくわ麩 | 1.5 | 0.5 | 8 | 1 | 0.01 |
観世麩 | 3.7 | 3.3 | 33 | 6 | 0.16 |
板麩 | 3.8 | 4.9 | 31 | 190 | 0.20 |
車麩 | 2.6 | 4.2 | 25 | 110 | 0.12 |
食物繊維は「食物繊維総量」です。
麩のいろいろ(焼き麩)
画像は随時増やします。
<焼き麩の種類>
直火で焼き込むもの・・・くるま麩、庄内麩(表面が濃いきつね色)
電熱オーブンで焼くもの・・・もち麩、たまご麩、観世麩など(きつね色が薄い)
型に入れて焼くもの・・・手まり麩、もみじ麩など(焼き色はほとんどない)
<用途>
煮込みもの・・・八宝菜や麻婆豆腐などの中華料理、野菜やいも類の煮込みなど。
洋風のグラタンやシチューなどにも。
炒めもの・・・・軽く炒めて卵で閉じるなど。すき焼き風煮込みなど。
汁もの・・・・・みそ汁やスープ、おすましの椀だねとして。
スイーツ・・・・パンプティングや、ラスク、サバラン、ボストークなど。|
和菓子では、お汁粉、麩もなかなど。
その他・・・・・田楽、からし和えなどの和え物、ラーメンなどの具として。
<焼き麩いろいろ>
【その他】画像にはありませんが、事典では、「京花麩」「押麩」「利休麩」「小町麩」「安平麩(あんぺいふ)」「新発田麩(しばたふ)」などが紹介されていました。実際には、90種類とも100種類ともいわれるくらいの種類があります。
麩のいろいろ(生麩)
生麩を紹介します。画像がないのですが、随時アップしたいと思います。
【生麩】 右の生麩は手作りしたものです。グルテンですから、もちもちとしっかりした食感があります。 |
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【ちくわ麩】 湿麩に小麦粉などを加えてちくわの形に成形して蒸したもの。関東ではおでんだねとして使われますが、ぜんざいの具にしても良いと思います。「伸びる食感」ではありません。 |
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【よもぎ麩】 四角い棒状の形をした麩です。適当に切って田楽や煮付けに使います。雑穀の「あわ」や「青のり」なども生麩によく混ぜ込まれるようです。 |
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【手毬麩】 細工麩の一種 |
<用途>
生麩はおでんだね、田楽、椀だね、てんぷら、煮付けなど多彩に使われます。洋風や中華風のメニューにもあいそうですね。
麩の発達と歴史
なぜ、麩はこんなにたくさんあるのでしょう??本によれば100種類くらいあるそうです・・・。筆者の独断と偏見で、下記の5つが発達要因として考えました。いかがでしょうか。
1)もち米で作る「餅」のような食感だけど・・・お手軽!
生麩はもちもちとしていて、あんこにも合うし味噌を塗って焼いてもおいしく食べられます。諸外国と違って、日本は「箸食」の国。お餅のようなものはフォークやナイフでは食べにくいものですが、お箸ならばっちり。手でもつまめます。おまけに「もちもち」。日本人は「もちもち」が大好き・・・ではないかと思いますがいかがでしょう。
高たんぱく質低脂肪で、おやつにぴったり。「お餅」に使うもち米は、うるち米の近くで栽培できず、生産量も少ないので割高感もあります。それに、やっぱりお餅はハレの日の食品だろうと思います。お赤飯もハレの日の食べ物ですね。めったに食べないお餅への憧れもあったかも??
2)常温で長期間の保存が可能!
焼き麩は水分活性が低いので、長期保存ができます。昔は冷凍冷蔵庫もありませんから、常温で長期保存ができる食品はとても便利で、多くの家庭でいくつか常備されていました。もちろん、現代でも常温で長期保存できる食品は便利に決まっています。保存するのに電気代もいらないし何もない時にスーパーやコンビニエンスストアに走る必要もありません。常温保存可能って、実はかなり便利なのです。
3)四季を表し、料理を彩るのにぴったり!
手毬麩やはな麩、まつたけ麩など、かわいらしい細工麩は飾りにぴったり。春のヨモギやあおさのり、秋には収穫した雑穀を入れてもいいし、冬にはこくのあるナッツ類入りもおいしいかもしれません。田楽なら木の芽味噌、ゆず味噌などで季節を表現。生麩と栗を合わせてぜんざいにするのもいいですね。いろいろな形と風味で、和食文化を盛り上げましょう。
4)野菜の煮物や辛し和えなどで、栄養的&食品的お助け食材!
麩は常温で長期保存な食品ですから、芋類や野菜類を煮付ける時に加えるとたんぱく質が追加されて栄養バランスのとれたお惣菜になります。あぶら麩のようにボリュームのあるものは卵でとじて親子丼のような「あぶら麩どんぶり」として食べることもあるようです。仏僧のように、肉食禁忌なら貴重なたんぱく質源になりますね。高野豆腐、焼き麩、湯葉など、乾物でもたんぱく質含有量の多い食品がたくさんあるのは日本食の特徴かもしれません。
5)郷土色豊かな麩!
そうそうあちこちの地域に簡単に行けず、インターネットでお取り寄せもできない時代は、お土産として、、また保存食として長期保存がきく麩は適切だったのではないでしょうか。
リジンが足りないってのは、日本人のようにリジンの多い大豆および大豆加工食品を常時摂取していればあんまり問題にはならないと思います。各地方にある焼き麩は近くには売られていないものだし、ふわふわ&もちもちで、下記にあるように手間をかけて作られていますから、料理担当者にはちょっぴりうれしいお土産だったかもしれません。
【麩の歴史】
日本では、室町時代に麩の料理が記述されているようです。「松屋会記」という千利休による茶会の覚書には汁物の具として「麩」(天文13年(1533年)2月27日)が登場しているそうです。せっかくのうどん粉(国産小麦で作られた小麦粉をうどん粉と言っていました。)で、主食になるうどんやだんご、すいとんなどを作らず、でんぷんを取り除いた麩にするのですから麩は贅沢品だったのだろうと思います。洗い流したデンプンなどは「浮き粉」として和菓子などで活用したり、でんぷんのりを作ったり、いろいろと使い道があるような気もします。